6 仏の顔は何度でも



上杉氏の性格を表す特徴の中に、声が大きくはっきりしていて、言うべきことは率直に言う。というのがあります。しかし、これも全て本当ではないようです。奥様に対する感謝の気持ちも口に出したことは一度もありませんし、多くの業績も口に出して人に言ったりしたことはないからです。まして、人に感謝されるようなことは絶対口にしません。

 奥様にお会いしてすぐ、「率直に言ってご主人はどんな方ですか」と聞いてみました。すると、奥様はすぐに、「主人は政治家になるよりも僧侶になっていたほうがよかったかもしれません。私はそっちの方が向いていたと思いますよ」と、おっしゃったのです。
「は?」と、一瞬戸惑ってしまいました。でも、すぐにそれは解りました。どうやら、上杉氏はよくある『仏の顔は何度でも』のようです。
仏の顔も三度までとよく言いますが、どうやら彼は、何回だまされても懲りずにまた人の世話をしてしまう、お人好しのようです。
これは、人に感謝されようとしてやっているわけでなく、本人も気づかない、家訓の戒め、浪人生活での人の情けが身についているからではないでしょうか。
この世話好きは子供の頃からのようで、少年時代から人の世話をせっせとしていたようです。果ては恋文の受け渡しまでしていたとか。
彼の若いときの友人数人に話を聞いてみますと、異口同音に「自分に厳しく、人に寛大」、そして「いっちゃがさんだよ」と言います。……いっちゃがさん?
いっちゃがさんとは、自分が社会や人のためにいいことをしても、「何も言わんでいっちゃが」という上杉氏の口癖からきているのだそうです。政治家として大変な業績を残している上杉氏ですが、それも「人には言わんでいっちゃが。知ってる人は知ってるが」と、何も表立って言おうとしないので、多くの人が知らずに終わっています。(政治家として少しは広報活動を行った方がよろしいのでは‥‥‥!)


       (コピーライター 北村多喜子 平成14年12月)